湯守からの手紙                                                    かんわきゅうだい

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ムササビ夜話
塩原温泉によく来られる方でも、鹿股川渓谷沿いに湧くこの“塩の湯”は、意外にご存知でないのは果たして喜ぶべきか、悲しむべきか──。確かにこの地は、県道から1.2qほど奥まっており、旅館二軒だけの小さな温泉場で、奥には民家もあまりありませんので、人目に触れるようなところではありません。また、そうしたロケーションが幸いして、昔から長期滞在型の静養・保養の地として文人墨客たちに親しまれてきた歴史もあります。
鹿股川の上流は、“塩原十名瀑”に数えられる塩原滝めぐりの代表的エリアにもなっており、人気の高いハイキング・ルートとしての伝統もあります。ま、あまり知られていない、ある種タイム・スリップしたような温泉地であることが、かえって“塩の湯”の大きな魅力の一つにもなっているのですが、何にもまして今も残る豊かな自然こそ、塩の湯の最高の魅力と言うことができそうです。当然、この地に棲(す)む動物たちの生態系との境界線で向き合わなければならない場面も生じてきます。
数年前までの出来事でした。きまって夏になると、毎晩のように『 ドッタン! ドッタン!』 と、何かが動き回っている音や、ガリガリと爪を立てるような音が天井裏から聞こえてきました。──その犯人は、何とムササビでした。どうやらその数年前からムササビは、屋上辺りに巣を作り塒(ねぐら)にして棲みついてしまっていたようです。深夜になると、柏屋旅館の屋上を中継地にして、対岸の山と、西側の温泉神社の山との間を、滑空しては行ったり来たり…。お客様もその姿に気付かれて、「ゆうべ夜中に、何かが空中を飛んでましたよ!」と、ご報告もいた

柏屋旅館前の温泉神社
だきました。露天風呂の「かわせみの湯」から、滑空するのがちょうどよく見えるようです。

四季折々に美しい対岸の山
ムササビの館内への侵入を防ぐために、ずいぶん苦労させられました。が、何とか防ぎ止めることができ、それ以来入ってくることはなくなりましたが、どうやら今も当館の“主(ぬし)”になっていることに変わりはないようです。だいぶ大きく成長しました。かつて四階のある部屋の戸外の暖房機の下で、尻尾がのぞいているのを見かけて、試しに突ついてみたことがありました
が、冬場のせいかビクッともせずに眠っていました。あるいは、柏屋別荘や「桐の湯」の欄干に、リスのようなかわいい仕草で止まっているのを見かけたこともあります。まるでビー玉のような、いとおしさを感じさせる目が印象的な動物ですね。
また、急に出くわしたとき、尾をふくらませピン!と立てて威嚇されたこともありました。まァ、出合うことがあっても、そっとしておいてあげれば怯えることはないようです。あらゆる生きものと“共生”していくことがテーマである21世紀に入りましたし、このムササビ君から、当館の“主”の座を奪う必要もないでしょう。
先日、編集長が「ニュース・トピックス」のページに、“カモシカ・ウォッチャー”の話しをお載せしましたが、今度は“ムササビ・ウォッチャー”の話しということになったようです。ちなみに、ムササビは「ズーッ、ズーッ」という声で鳴きます。そのようなわけで、夏の塩の湯は“にぎやか”ですが、これも塩の湯に豊かな自然が残っていればこそ出会うことができる、かけがえのない“生命のシンフォニー”ドラマです。どうかお越しの際には、昆虫をはじめ生きものたちの種類の多さに驚かれませんように──。 (2001.4.16記)

  ※ムササビはリス科の哺乳類

     シリーズ (1)  “クワガタ”のお礼状


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